ゼロからわかる!『電子帳簿保存法』入門
電子取引したデータは10年間の保存が必要 |
対象者は納税義務のある全事業者 |
保存対象は電子取引した全ての書類 |
保存データには日付・取引先・金額が必要 |
検索・印刷・ダウンロードに対応すること |
どんな種類のシステムがあるのか? |
それぞれのシステムのコストやメリットは? |
あなたにお勧めのシステムをYes・Noチェック! |
かつてインボイス制度が実施されたとき、「対応しなければ代金がもらえない」ということで世の中が大騒ぎでした。それに対し電子帳簿保存法(電帳法)は、「対応しなくても特に困らない」ためか、世の中もさほど慌てていない様子です。おまけに電帳法はシステム的要件が多いので、「ますますよく分からない」というのが実情でしょう。
でも、電子帳簿保存は2024年1月から全事業者に義務化されているので、税務的には絶対に対応しなければならないのも事実です。
当社はソフト開発会社なので、自前で対応システムを構築することにしましたが、それでも数々の課題に直面し、その都度に経理部門と対応方法を検討し、システムを完成させました。その過程で「これは他の事業者でも必要なのでは?」と思い、製品化したのが「おまかせ電帳司書」です。
電子帳簿保存法を解説したサイトは沢山ありますが、自前で対応した経験を踏まえたものはあまり無いので、本解説では実務上必要な知識を中心に解説したいと思います。
まず、前編で電帳法の知識を、後編ではその対策となるシステムの選考と導入を解説します。
前編:電子帳簿保存法とは
1. 電子帳簿保存法の目的
そもそも電子帳簿保存法はどういう法律で、何の目的で施行されたのでしょうか?それは電子帳簿保存法の冒頭に書かれています。
第一条
出典:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(通称:電子帳簿保存法)
この法律は、情報化社会に対応し、国税の納税義務の適正な履行を確保しつつ納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等について、所得税法、法人税法その他の国税に関する法律の特例を定めるものとする。
要約すると「国税の納付をより確実にすること」と、「事業者のデジタル化を促進するため」の2点になります。これまでも税務調査や確定申告の際に、税務署側も事業者側も書類の確認(検索)に多くの時間がかかっていたので、これをデジタル化することで、お互いに負担を軽減して行こうという趣旨です。
昨今話題のDX化(デジタルトランスフォーメーション)を官民共同して進めて行こうということです。
2. 電子帳簿保存法の概要
一口に「電子帳簿保存法」と言っても、その内容は多岐にわたります。
item | 関連法令 | 対象 | 通称 | 必要性 |
---|---|---|---|---|
国税関係帳簿 | 第4条1項 | 台帳・元帳 | 電子帳簿保存 | 任意 |
国税関係書類 | 第4条2項 | 決算関係書類 | 電子帳簿保存 | 任意 |
第4条3項 | 取引関係書類 | スキャナ保存 | 任意 | |
第5条 | 取引関係書類 | マイクロフィルム保存 | 任意 | |
電子取引書類 | 第7条 | 電子取引データ | 電子取引データ保存 | 義務 |
このうち2024年1月の時点で義務化されているのは、表の最下段(ピンク色)の「電子取引データ保存」のみなので、取りあえず「電子帳簿保存≒電子取引データ保存」と認識していてもよいでしょう。
さてその「電子取引データ保存」ですが、これは Webや電子メールで送ったり受け取ったりした請求書や領収書は電子データのままで保管しなければならない ということです。期間も10年間分の保存が必要です。
- 電子保存した上でのプリントアウトは許されますが、紙書類とは分類して保存する必要があります。
今までは電子送付された請求書や領収書もプリントアウトしてバインダーに保存できましたが、今後はそれが許されません。 一方、郵送や手渡しなどで受け取った紙状態のものは、これまで通りバインダーに保存しても問題ありません。
電子帳簿保存法は、会計・税務のデジタル化を促進させる法律なので、今後スキャナ保存なども順次義務化され、全てを電子保存する方向へ進むのだろうと思われます。 直前に慌てないように、順次デジタル化を進めておいた方が、事業者にとっても対応が楽に進められると思います。
3. 電子帳簿保存法の対象者
電子帳簿保存の対象は、所得税・法人税を納める全ての事業者です。法人はもちろん個人事業主も含まれるので、フリーランスの人も無縁ではありません。また、副業であっても300万円を超える収入のある人も対象になります。
4. 電子帳簿保存法の対象書類
保存の対象となるのは、電子で送受信した以下の書類です。
請求書 見積書 納品書 領収書 契約書・・・など
契約書が対象なのを疑問に思われるかもしれませんが、印紙税法により契約書には印紙の貼付が必要で、印紙は国に税金を納めた領収書なので保存の対象になっています。
また、以下のような方法で提供を受けたものも「電子で受信した書類」とみなされるので注意しましょう。
電子メール自体をファイル保存するか、画面を画像保存する必要があります。
郵送で届いた場合は、そのまま紙保存で構いませんが、会員サイトで確認の場合、リストをダウンロードするか、画面を画像保存する必要があります。
5. 電子書類保存の方法
電子帳簿の保存先は特に指定されていないので、自分のパソコンでもサーバー上でも構いませんが、すみやかにアクセスできる環境でなければなりません。
また保存するファイルは日付・取引先・金額が判別できる状態にしておく必要があります。
例えば通販サイトAMAPONで2024年4月1日に12800円の商品を購入し、その請求書がPDFで届いた場合はファイル名を以下のようにしておきます。
6. 電子帳簿保存をしないとどうなる?
電子帳簿保存法の第8条には、申告取り消し等の罰則規定があり、税務署からの照会や税務調査で電子帳簿が保存されていないことを指摘されると、以下のような罰則が科される可能性があります。
確定申告時では、その内容が経費として否認され、再申告時に所得税が増額となる可能性があります。また決算後や確定申告後であれば、修正申告を要求されるだけでなく、追徴課税(35%の重加算税)や延滞税を科される可能性もあります。
税務署からの照会で電子帳簿を提示できない時は、青色申告の承認が取り消される可能性があります。青色申告が出来ないと、各種控除が受けられなくなり、欠損金の繰り越しや少額資産の減価償却控除等もできなくなります。
専門家の間では、「義務化一年後の2025年あたりから指摘が厳しくなる」との話もありますが、いずれにしても指摘を受けてからでは遅いので、早めの対策が安心です。
7. 電子書類保存の法的要件
電子帳簿保存法で電子データ保存に求められている要件は以下のものです。
◎の項目は全ての事業者が満たさなければならない要件です。 それ以外の△項目は推奨事項とされていますが、これは「やらなくてもよい」という意味ではなく、「ダメとは言わないができるだけ可能にするように」という意味です。「いきなり全部は無理だろうからしばらく待ってあげよう」という措置ですので、いずれは義務になっていくものと考えておいた方が無難です。
なお、「年商1000万円以下の事業者は対応しなくて良い」という話が出ることがありますが、正しくは「前々年の年商が1000万円以下の事業者は検索機能要件に関しては除外される」という意味です。 これはあくまで検索機能要件(上記リストの2番目)が緩和されているだけであって、電子取引データそのものが免除されている訳では無いので注意してください。
8. 電子帳簿保存には専用システムの利用がおススメ!
電子取引データの保存要件を満たすのは、なかなか大変そうですが、決して自前でできない訳ではありません。その方法は国税庁ホームページの特設コーナーでも実例を挙げて詳しく解説されています。 ただし、その場合は以下の資料を用意することが義務付けられています。
自前でこれらの文書を用意するのは結構な面倒なことですが、簡単に解決できる方法があります。それは電子取引データの専用システムを利用することです。 専用システムは整備要件の書類をマニュアルや機能で用意してくれているので、自前で用意する必要が無くなります。
ただ、専用システムは、実に多くのサービスが提供されているので、何を基準に選べばよいか迷ってしまいます。そこで後編では、電子書類保存システムの選び方について解説します。
後編:電子帳簿保存システムを導入する
1. 電子帳簿保存システムの選び方
電子帳簿保存システムの紹介ページを見ても、専門用語が多く、よほどコンピュータに詳しくなければ、何を言っているのかよく分からないかもしれません。
そこで国税庁では、これら電子帳簿保存に対応したシステムを評価して認定を行う制度を実施しています。認定は公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が国から委託を受けて実施していて、「全ての法的要件を満たしている」と評価したものには認定マークを付与しています。JIIMAで認証されたシステムは国税庁のホームページにそのリストが掲載されています。
この認証マークが付与されたものを選べば「すべての法的要件が満たされている」ことが公的機関により確認されているので安心です。
- 各分類の認証マークの色や形はデザイン上選択可能なもので、認証内容の区別ではありません。
沢山の種類の認証マークがありますが、電子取引データ保存に関しては上図のピンク枠内の認証マークが付いているものが認定されたものです。
2. 電子帳簿保存システムの種類
電子帳簿保存システムは「クラウド方式」と「アプリケーション方式」に大別されます。 それぞれの方式や特徴を見てみましょう。
電子帳簿保存のシステムのほとんどがクラウド方式というEdgeなどのブラウザを利用して電子取引データを運営会社のサーバーにアップロードする方式です。会計ソフトが連携サービスとして提供しているのもほとんどがこの方式になります。
クラウド方式は、アップロードした電子取引データを原則として削除できないので、これにより「真正性」(本物であること)を担保します。 また、サーバーはRAID(レイド)などの記憶装置の損傷に備えたシステム構成を取っているので、データを喪失する危険性は非常に低くなっています。
クラウド方式はインターネット上で提供されるシステムなので、クラウドサービスと呼ぶ時もあります。
WordやExcelのように、専用ソフトをインストールして、パソコン上に電子取引データを保存するのがアプリケーション方式です。 ソフトを購入してインストールすれば、すぐに使い始めることができ、利用契約などの手続きが必要ありません。
保存データも自前のパソコンにフォルダ構成で置かれているので、保存データそのものの直接確認も簡単です。
3. 電子帳簿保存システムの導入で考慮すべき課題
電子帳簿保存のシステムは、これから10年以上に渡って利用するシステムになるので、導入に当たっては長期視点で確認しておかなければならない問題があります。 少々専門的で難しいかもしれませんが、システム開発者だからこそ分かっている情報も多々ありますので知っておいて損はないと思います。それでは各課題をメリット・デメリットも比較しながら掘り下げてみましょう。
「アプリケーション方式は将来OSが変わった時でも利用できるのか?」と聞かれても、正直「分かりません」と答えるしかありません。未発表のOSがどのようになるかは誰にも分からないからです。ただ、過去の事例で見ると、例えばWindowsは7・8・10・11とバージョンアップしていく中で、基本的に過去のアプリケーションの互換性は維持されてきました。 例えば10年以上前のOffice2013が今でも使えるのは良い例でしょう。このことから将来登場する新OSでもアプリケーションの互換性は維持されると思われます。
一方、クラウド方式は「OSに依存しないので安心」といわれ、確かにその通りなのですが、問題はブラウザの側にあります。 例を挙げると、過去Internet Explorerが廃版となり、Microsoft Edgeに移行し始めた一時期、銀行のオンラインバンキングがEdgeでは使えないという事態が起きました。またブラウザのアップデートで、「セキュリティ上の理由でクラウドサービスが使えなくなった」という事態は、割と頻繁に起きています。 クラウド方式を導入する際は、そんなときの対応が迅速かどうかを見極める必要がありますが、実際どうなのかは導入してみないと判らないのが歯がゆい点です。
継続性とは、長期に渡ってサービスを提供しづけてくれるかどうかという問題です。
アプリケーション方式は、ソフトを購入してインストールしてしまえば、以降ずっと使い続けることができます。極端な話ですが、たとえそのメーカーが無くなったとしても、ほとんどの場合、アプリケーション自体は使い続けることができます。
また、保存書類はパソコンの中にフォルダ整理されて残っているので、他のシステムへの移行も容易です。
クラウド方式の最大の問題はこの点かもしれません。会計ソフトのメーカーが付帯的に提供するサービスであれば今後の継続性も期待できますが、単独のクラウドサービスは、事業撤退などで、ある日突然サービスを終了してしまうかもしれません。そうなるとアップロードしたデータは永久に失われます。 他のサービスに移行するにしても、膨大なダウンロード作業と、その後の膨大な登録作業が発生することになります。
継続性の問題とも関連するのがバックアップ問題です。結論を先に言うと、どんなシステムを採用してもバックアップは必ず必要です。
クラウド方式は「データがサーバーにあるからバックアップは必要ない」と思われる方がいますが、これは誤りです。サーバー保存は確かに「相当安心」ですが、「絶対安心」ではありません。実際サーバーの不調や機材の入れ替えで、データの再アップロードを要求される事態はしばしば起きています。
また、継続性で解説したように、提供会社の都合でクラウドサービスが終了してしまうことも有り得るので、やはりバックアップは必ず必要です。
バックアップは万一の時の対策なので、パソコンに保存していては意味がありません。当然のことですが外部メディアへのバックアップが必要です。 アプリケーション方式では、バックアップはソフト側で対応してくれていますが、クラウド方式の場合は自前で対応が必要になります。これはネットワークシステムが全般的に、パソコン内のファイルを直接扱うことが技術的に困難なためです。
下の表は、一般的なA4サイズのPDFファイル(100KB程度)を保存するのにどのくらいの容量が必要かを表にしたものです。年商が億を超える事業者でも、月に処理する電子書類は200本前後だと思うので、バックアップはUSBメモリでも可能なことが分かると思います。
月間電子帳簿数 | 月間容量 | 年間容量 | 10年間容量 | 推奨USB容量 |
---|---|---|---|---|
100本 | 10MB | 120MB | 1.2GB(1200MB) | 4GB |
200本 | 20MB | 240MB | 2.4GB(2400MB) | 8GB |
400本 | 40MB | 480MB | 4.8GB(4800MB) | 16GB |
600本 | 60MB | 720MB | 7.2GB(7200MB) | 32GB |
800本 | 80MB | 960MB | 9.6GB(9600MB) | 32GB |
1000本 | 100MB | 1.2GB(1200MB) | 12GB(12000MB) | 64GB |
- 保存にはファイル以外にファイルリストやフォルダの容量も必要なため、総ファイル容量の約2.5倍が必要です。
クラウド方式の多く月額制ですが、月単位でリーズナブルに見えても、年額にすると意外と高額です。
また、使用するサーバーの容量が増える毎に別料金が発生する場合もあります。多くのサービスでは、一度アップロードしたデータの削除は出来ないので、容量コストは永続的に増えていくことを前提にすべきでしょう。
中には容量無制限のサービスもあり、当然のことながら月額料金は高くなりますが、保存容量が将来大きくなる想定であれば検討するのも良いかもしれません。
月額料金 : 5,000円
サーバー容量費用 : 100MB増加するごとに2,000円
保存書類は10年間保存しなければならないので、コストは10年間の総費用で比較する必要があります。これらのコストをグラフ化してみました。これは年間容量100MB(100KBのPDF換算で月間80本)を想定しています。
電子書類はメールの文面に含まれたり、添付データとして送られてきたり、会員用WEBページに表示されたり、いろいろな形式で提供されます。
クラウド方式では、ブラウザが表示できるファイル形式の制限のため、原則PDF形式のファイルしか扱えません。このためPDF以外の電子書類は毎回PDFに変換しなければなりません。
PDFに変換するには別途Adobe社のAcrobatが必要になります。このソフトは年間3万円程度の費用が必要になるので、そのコストがさらに追加になります。
- PDFAdobe Acrobat形式の文書ファイル
- HTMLブラウザの表示形式
- MHTMLWebの保存形式
- EML一般的なメール保存形式
- MSGMicrosoft Outlookのメール保存形式
- 各種画像ファイルBMP/JPG/PNGなど
4. まとめ
ここまでの解説から、各種サービスの特徴を表にまとめてみました。
item | 一般的なクラウド方式 | アプリケーション方式「おまかせ電帳司書」 |
---|---|---|
初期費用 | 1,5000円程度 | 24,000円 |
月額料金(年額) | 5,000円(6万円) | 不要 |
追加容量費用 | 100MB毎に2,000円 | 不要 |
ファイル形式 | PDFへ変換する必要あり | 原則ファイル形式のまま |
複数担当者利用 | 可能(要別途費用) | 共有ドライブで可能 |
自前のバックアップ | 必要 | 必要 |
バックアップサポート | 自分で対策が必要 | 定期的に自動 |
サービス終了時のデータ | データは失われる | データはパソコン内 |
サービス終了後の利用 | 不可 | ソフトは継続使用できる |
ネット障害時 | 使用不可 | 使用可能 |
ここまでの解説でお判りだと思いますが、クラウドサービスは少なくとも小規模事業者に取ってはオーバースペックです。ただし、会計ソフトに連動した電子帳簿保存システムがリーズナブルに利用できるのであれば、それは良い選択肢の一つだと思われます。 パソコンでの保存から、事業拡大に伴ってクラウドサービスに乗り換えることは容易ですが、逆はとても困難なことも考慮の必要があります。
最後に、ここまでの解説をまとめて「Yes・Noチェック」にしてみました。是非お試しください。